ビジネスプロデューサー協会会報誌『BPA JAPAN』第4号(2012年5月30日発行)の巻頭インタビューに掲載された記事です。

山 崎 哲 史
(演出家・俳優・表現教育研究者・ファシリテーター)

1965年 岡山県生まれ
中央大法学部卒・東京学芸大学大学院修士課程表現教育コース修了(応用演劇・ドラマ教育)。
「花天月地プロジェクト」を主宰。自団体の他ギィ・フォワシィ・シアターなど外部舞台公演の演出多数。現在はリアリズム演劇を中心に、翻訳劇から古典まで手掛ける。また、俳優としてシアターχ名作劇場、芸術劇場等に客演のほか、TVで、「ごくせん」(教師役レギュラー)、「不毛地帯」(レギュラー)などの出演に加え、CM、企業VP、ナレーション等実演活動を続けている。
傍ら、近年は表現教育活動として、PETA(フィリピン教育演劇連盟)主催アジア民衆演劇ワークショップの他、内外で演劇的手法によるアウトリーチ活動に参加。ノン・アクターとの演劇交流をテーマに、教育現場(小学校~大学まで)、劇場、地域コミュニティー、矯正施設、企業研修などにてファシリテーターとしての活動を展開している。
日本特殊教育学会(発達教育・心理学)、日本演出者協会、演劇教育連盟会員。
2012年より、おかやま国際観光親善大使
(写真 小杉朋子)

8月にBPA LIVE Vol.7にて、「フォーラムシアター」を開催される演出家山崎哲史さんにインタビューさせていただきました。

「必要なのは、われわれが現実を変革することのたすけとなるような演劇なんだ。だれもが行動し、演ずる。意識をもちいて、からだをもちいて。それは、観客を観客という状態から解放することからはじまる」
(アウグスト・ボアール『被抑圧者の演劇』晶文社)

小幡: まずは、フォーラムシアターについて、素人にも分かりやすいお話をいただいてもよろしいでしょうか。

山崎: 結論を言いますと、「問題意識を演劇で考える」ことなんですね。Theatre(シアター)というのは、現在は娯楽(エンタテインメント)と美(アート)の発信場所でもありますが、もともと、古代ギリシャ、ヨーロッパでは、メディアとして社会的な役割も果たしていました。  現在では、メディアはマス(不特定多数の大衆)を対象としていますが、シアターでは、一部の特定の集団、マイノリティの人々に与えられるオーダーメイドが可能になります。

古来より、演劇は役者に感情移入(同化)することで、終わった後に「いい気持ちになった。楽しかった」という、アリストテレスの詩学によるカタルシス(浄化作用)が目的となってきました。一方で近代では、ドイツの劇作家・演出家、B.ブレヒトが観客に考えさせるという目的で、役者と距離を置き、演劇を俯瞰すること(異化)によって、問題意識を持ち帰る手法が提唱されました。その後、ブラジルの演出家A.ボアールは「被抑圧者の演劇」として、観客が問題意識を考えるだけでなく、その人に変化を与え新たな行動にうつすまでの演劇の可能性を打ち出しました。

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ボアールの被抑圧者の演劇では、観客は“SPECTACTOR”(=SPECTATOR(聴衆)とACTOR(俳優)の合成造語)として、自ら演劇に参加し、問題解決を試みます。その手法の一つであるフォーラムシアターは、「解放のために努力する人々の、人々による、人々のための演劇(民衆演劇)のひとつの形態」といえます。私自身、演劇には社会(人)を変える力があると思っています。

現在、演劇を応用して問題解決をはかる手法は様々な場面で利用されています。日本では、特に精神医療や心理カウンセリングの分野では、ロールプレイを取り入れたサイコドラマやSSTと呼ばれる手法で治療に当たってもいます。
それは医療や教育目的として行われていますが、演劇に関しては素人である方々がそれを行うという点に関しては、演劇のプロフェッショナルとして、演技の部分を疎かにされたまま「演劇的手法」とされることには、疑問を感じます。
応用される演劇においても、演技は演じる技術をでもあり、きちんとしたプロフェッショナルの芝居で、その対価を得る価値があると思っています。

小幡: 確かにマッサージの業界でも、あん摩マッサージ指圧師や柔道整復師、鍼灸師といった国家資格がなくても医療行為を行う人も多いですね。
最終的には、お客様やクライアントにとって最適なものを与えることができればOKなのかもしれませんが、医療の基本を知らず、経験値のないままに現場で行為をするというのは躊躇われますね。

山崎: 演劇という芸術を守ることにもつながります。
ですから、私たちのフォーラムシアターでは、技量のあるプロの俳優さんに協力してもらって演じてもらっています。
その演技部分のクオリティが一番こだわった部分であり、私たちの特徴でもあります。
フォーラムシアターとは、具体的にその手法を話すと、そこに集まる人々の抱えている問題を演劇化して演じます。その問題の起きた場面(原因)を探り、自分だったらどうする?といった芝居を、何度も繰り返しながら、それぞれに気づきを受け取ってもらいます。
それは、自分たちの問題を客観視できるということ、それがその集団(企業内)に変化をもたらし、問題解決につながっていくのです。

そこには、ジョーカーと呼ばれるファシリテーターの存在が重要で、場面の登場人物一人一人が、役としての自分の気持ちを考えながら動いて場面を展開させていきます。
客席では、自分たちのことを芝居にして、自分たちの意見で変えてくれるという感覚になります。自分たちの問題を解決していく中で、仲間の考えを理解し、他人のアイデアを発見したりします。
そして、「自分だったら・・・」と、まさに当事者意識をもち、実際に演技者にもなります。

ビジネスにおいても人との関わりにおいても、問題というのはコミュニケーションが大きな影響を与えます。相手になってみる(演じる)ことで、見えなかった相手の気持ちや思い、自分の行動の原因などが明確になり、それが実際の生活や日常の中で、これまでの自分と違う自分を呼び覚ますきっかけになります。

ですから、このフォーラムシアターは社会的意義が多いにあると思っていますし、企業にとっても、とても有効な社内研修にもつながると思います。

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– 8月30日(木)フォーラムシアター開催!六本木Bee Hiveにて –

小幡: 8月30日のフォーラムシアター、すっごい楽しみです!ところで、山崎さんと演劇の出会いって、どんなことだったのでしょうか。

山崎: 子ども時代の一般的な学芸会体験と、高校では演劇部掛け持ち幽霊部員ではあったのですが、田舎のことですから本物に触れる機会はありませんでした。成人してからも、仕事の合間(さぼって)ニューヨークのスタジオや、新劇といわれる分野の某養成所で芝居していました。 
その後、金払いのいい観客(笑)ミュージカル大好き。それにも刺激が受けられなくなって退屈していたときに、東京に戻って、いわゆるアングラ演劇と呼ばれるものを見て雷が落ちた感覚になりました。「いまどき、こんな事やっていいんだ」って感じです。とても衝撃を受けた寺山修二と、それを立体化した芸術が見事にそこに光臨してました。
僕の演劇への導入になっていたのは、もっぱら文学からと思います。寺山修二の言葉の凄さに傾倒して読み漁ったことや、あるとき衣裳の仕事で、作品を理解する為にハイナー・ミュラーを読まされて、理解不可能なものを理解して形にする面白さを体験したこと等ではないでしょうか。

小幡: 東京学芸大学大学院で表現教育を学ばれたのはなぜですか?

山崎: 僕は20代前半は外資系企業にいて海外でも多く仕事をしていたんです。ビジネスは充実していて、生活は安定していましたが、忙しくてアートに触れらない。芝居や演劇だけでなく、現代美術にも興味がありましたし、書くことも好きだし・・・。そこで独立を機に、演劇とビジネスという自分のすべてを活用して生きようとしたんです。それまでに、大手芸能事務所で芝居をしてテレビにも出て、小劇場の公演に携わったりしていたのです。でも男子一生の仕事としての演劇をやるには、と考え、それには周囲を説得できる意義と根拠が必要だと思って、学問として学ぼうと学芸大学大学院を受験しました。アングラ演劇の大先輩で、憧れの劇作家・演出家の佐藤信さん(現、座・高円寺芸術監督)が教授でいらしところも魅力でした。自慢できるのは、一般受験して、学部の優秀な学生たちと一緒に英語の試験や論文試験を受けたんですよ(笑)

小幡: 山崎さん。優秀なんですねえ(笑)

山崎: でも海外では、いくつになっても大学や大学院で学ぶことができるわけで、そういう意味では日本の大学受験って、高校卒業したら大学っていう流れもおかしなことですよね。

小幡: 本当に、「観客を観客から解放する」フォーラムシアターではないですけれど、大学を高校生の受け皿~みたいな考え方から解放しないと。社会に出て、足りないことが出てきたら、学べる場所が大学っていう存在でいいように思いますね。大学院では何を専攻されたのでしょう。

山崎: 応用演劇とパフォーマンス論です。この両輪が今、自分のアートワークの中心になっています。日本では、高いチケットのミュージカルを観て、美味しい食事をして、あー!贅沢!っていうのが演劇だったりします。我々が演劇は社会派だって言っても、サラリーマンの方は、俺たちの方が社会を考えている。社会で疲れているんだ。演劇は楽しみだ。観て面白かった、楽しかった。それで酒を飲んで帰る。それでいいんだ!って言われます(笑)でも、演劇って自分を変える経験ができるんですよ。チケット買ったけど、台風来たら行かないや。っていう演劇は、チケット分だけの価値しかないのです。

もっと、客席との共有というか、演ってる人も観ている人も変わっていける体験をしてもらいたいんですね。
4月にやった、「直島躑躅(なおしまつつじ)2012・古民家アートコラボ」も、人が集まって、その時、そこでしかやれない生(LIVE)のこと。空気が伝わる。自分が変わる。人も変わる。という出会いなんです。台本も出会いだと思って、自分で台本を書いたり、演出したりしています。

[nextpage title=”天真爛漫”]

– 天真爛漫な子ども時代 –

小幡: そんな山崎さんは、どんな子ども時代を過ごしていらしたのですか?

山崎: 天真爛漫(自分で言うな)で、神童でした(笑)。
世界の中心は自分で、思いついたら即実行!という感じでした。今とは全く逆のキャラクターです。
先日、体験したダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンという視覚障害の方がナビしてくれて、暗闇の世界体験できる場所があるんですけれど、「盲目の体験」をするために、そこに行ったんですね。そうしたら、誰にも見られていない安心感で、子どもの頃に戻った感覚だったんです。
高円寺で演劇のワークショップをしているのですが、いつも子どもをリスペクトしています。子どもは遊びの天才で、子どもたちから学ぶことも多くて、彼らの方が先生みたいです。子どもを相手に、本気になると、本当に鍛えられます。

広い空間があれば、なにもなくても遊べるのが子どもで、そこに椅子が一個あれば、遊びが広がっていきます。昔、仮面ライダーを見て、親のネクタイを首に巻いたり、ベルトに画用紙で作ったものを貼り付けて変身ベルトにしたりしてましたが、今は、番組とグッズが一緒に商売にされていますよね。そういう意味では、工夫をさせない過保護のように感じます。

小幡: 山崎さんは、まさに想像できる子どもだったのですね(笑)

山崎: そういえば、一緒に暗闇の世界を体験した人は「想像力が100倍広がった」と言ってましたね。その人も子ども時代に戻ったのかもしれません(笑)。演出する時は、練習の半分の時間は本読みに使います。でも、役者さんには自由に動いてもらいます。「台本(ほん)はしっかり!役者は自由に!」で。着地点の高さや長さが、自分の思っていた以上の結果になったりします。

小幡: フォーラムシアターも、自由度の高い結末の無い演劇ですよね。自由大好きな人にとって、わくわくする体験ですね。

山崎: アートはビジネスにおいても無くてはならないもので、絶対にプラスになると思っています。右と左の脳みそをバランスよく使うってことは、ビジネスでお金を稼ぐことと、美しいもの、その両方の真ん中にいる自分っていうのが、人にとって大事なことだと思います。 例えば、演劇の代表的な技術論であるスタニスラフスキー・システムは、ビジネスの世界でも応用できる理論です。一方で、バランスシート的な自己評価の考え方は、アーティストの創造のとってもいいサポートになることに気が付きます。アートとビジネスは、相互補完できる関係なのですね。フォーラムシアターは、芸術的インプットとアウトプットと、経済人的考え方を融合して、観客である参加者が自分の思考を整理立てて分かりやすく理解できるので、何をしなくてはならないか、何をどうやって片付けていくのかということを、一人一人が気づいて、企業内が大きく変わっていくと思います。

小幡: 山崎さんも寺山修二のように自分の劇場(こや)を持ちたいと思ったりしませんか?

山崎: 今は自分で場所をもつ時代じゃないと思っています。小屋に自分の自由を奪われてしまって、それ以上のものはできなくなる。今、プロデュースの時代だと思っています。モノを所有しないことが大事で、場(自社ビルや自社工場)をもつのはイケてないない経営者だと思いますよ(笑)

小幡: なるほど。でも、このBPAサロンには、お気軽に遊びにきてくださいね(笑)

山崎: もちろん!(笑)

[nextpage title=”インタビューを終えて・・・”]

– インタビューを終えて・・・ –

演出家山崎さんは、プロデューサーとしても、様々なビジネスとアートを融合させておられます。影響を受けた人は?と聞くと、よく人は歴史上の人物をいいますが、自分はリアルタイムで、見ていない人や同じ時代を生きていない人から影響を受けることってないんじゃないかなあと言われます。

私も、実際に触れる人、言葉を交わす人からの影響と、本当にその人が言ったのか分からない言葉に響くことは無いので、うん!うん!と、深く頷いておりました。8月30日に予定しているフォーラムシアターは、本当に期待しております!そこに登場いただく役者さんともお会いして、誠実に演劇を生きている姿勢に、舞台を作り上げる最高のエッセンスはリスペクトなのだろうと思いました。

企業、会社の中でもリスペクトし合う関係で仕事を進めていくということは、とても大切です。

また、プロジェクトに関しても、それがなくては、絶対に成功はありえません。時に壁にぶつかり、自分の不甲斐なさを身近な人間に当ててしまうこともあるのも分かります。
しかし、そういう時でさえも、常に相手をリスペクトし続けることのできるマネジメント能力に長けた存在がいることで、その才能あるわがままたちを、成功に導くことができるのではないかと思います。忍耐力ある者が尊敬されるのは、成功への一歩と言えるでしょう。

直島アートのプロジェクトのひとつに、ひたすらに空を見ているというものがあったそうです。移りゆく空を何時間も見守りつづける・・・。みんな、何か空から降ってくるのか!と、思いながら、途中から騙された(笑)と分かっても、最後に全員が拍手したのだそうです。

子どもの頃。雷の光、稲妻を縁側で見ていたように、野原で寝転がって雲の行方を見守っていたように、無駄に思える時間、それは、現実から逃げているのかもしれない時間でも、現実をもっと、より豊かにするための時間なのかもしれません。

フォーラムシアターも、より豊かな生き方に気づかせてくれると思います。(小幡万里子)

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